コラム「司法修習生と模擬裁判」
カテゴリー:コラム  2014/10/09

第二東京弁護士会 60期
弁護士 刑部 志保

司法修習生という言葉をご存知だろうか。

 

いうなれば、弁護士や裁判官、検事の卵だ。

司法試験合格者は、法曹として働くその前に1年間の研修を受ける必要がある。それが司法修習生だ。

 

司法修習生は、弁護士、裁判官、検事のそれぞれの仕事を、実際の現場で研修生としての立場で体感していくことになる。弁護士としての研修においては、もちろん、各地の弁護士会で修習生の面倒を見ることになる。そのためにあるのが司法修習委員会だ。私はその委員である。

 

私が所属する第二東京弁護士会では司法修習生向けに「模擬裁判」というカリキュラムを用意している。文字通り、「模擬」的に「裁判」を体験できるプログラムだ。

修習委員が扮する依頼者から相談を受けた弁護士役の各修習生は、その相談者の為に、訴状などの書面を作り、裁判を進めていく。本当の裁判所の法廷をお借りして、証人尋問(裁判官の前で当事者が証人に対し質問をし合う手続だ。)を行うなんてことまで用意されている。

 

先達て行われた模擬裁判で、私は被告依頼者本人役を仰せつかった。今まで演劇などには全く縁のない人生を歩んできたが、全くの別人になりきって話をするというのは、意外に面白い。

被告役を演じるにあたっては、10頁程度のシナリオを頭に入れておかなければならないのだが、その内容が妙にリアリティがあって細かい。夫とのなれ初め話や好きな食べ物まで事細かに書いてあるのだ。私の性格上、そういったところばかり覚えていて、肝心の取引云々といった模擬裁判において重要な部分はすっかり頭から抜け落ちてしまうから、全く困りものだった。

 

今回の模擬裁判で被告本人を演じることは面白かったばかりではなく、非常に勉強にもなった。弁護士役の修習生の依頼者(私)への接し方や尋問のやり方などをみて、修習生に対して注意をしたりアドバイスをしたりしたくなる場面は、そっくりそのまま、日常的な自らの業務への反省に繋がる。

偉そうなことは言えないなあ、などと思いつつも修習生に対し注意やアドバイスをしてしまった(それが修習委員としての役目ではあるのでご容赦願いたいところだ)。

 

また、改めて思ったのは、司法修習というものが、多くの実務家の支えによって成り立っているという事だ。そもそも模擬裁判に裁判所の本物の法廷を貸してもらえるのだから、非常に贅沢だ。また、私も微力ではあるが弁護士業務の合間を縫って、お手伝いさせていただいたわけである(別に恩を売りたいわけではないので、念のため)。

 

自らが司法修習生の時は、周りの支えであるとか、そういったことをあまり考えずに漫然と過ごしてしまった感がある。それが今では非常に悔やまれてならない。

法曹に限らず、どんな仕事でも、周りが寄って集ってアドバイスをしてくれ、面倒を見てくれる機会というのは、その最中にある時は、そのありがたみに気が付かずかないもので、仕事に行き詰ってふと立ち止まって振り返った時に、あの時自分がいかに恵まれていたかということを思い知るものなのだろう。

 

そんなことをしみじみ思った模擬裁判だった。