総会記念講演「女性を生かせぬ国をどう変えるか」を聞いて

2011年6月11日
武田 万里子(津田塾大学教授)

 2011年度総会が6月11日(土曜日)に開催され、総会議事に引き続き、竹信三恵子さんによる記念講演が行われました。

 竹信さんは、朝日新聞の記者として、これまで、少子化、非正規雇用問題、ワークシェアリング、ワーク・ライフ・バランス、格差と貧困問題など、経済変動のなかでの男女の働き方や政策の変化について、多角的に取材してこられました。2011年3月末で朝日新聞社を退職され、4月から和光大学教授をつとめておられます。

 「日本はすごく経済発展した国なのに、それが女性の活躍につながっていない不思議な国。何でこんなことになってしまったのだろうか?」という問いかけから、講演ははじまりました。

 日本は、男性にお金を集めるだけで、社会福祉を行わず、かわりに女性が無償の福祉を担い、女性は非正規雇用化され、経済的に自立できず、税金や社会保険料を負担することもできず、そんな女性たちは子どもを生むことができないので少子化がすすみ、父親が沈むと父親にぶらさがっている子どもも沈むので貧困が「生まれ」によって連鎖し、女性と子どもがぶらさがっている男性は過労死し、人々は必要な職業訓練を受ける余裕もないので産業構造の転換に対応することもできない……そんな閉塞した社会の仕組みを変えようとしない日本の落ち込みは著しいが、もっと没落したときに、はじめて日本は社会の仕組みを変えることができるだろうというのが竹信さんの見立てでした。日本社会を規定しているジェンダー構造はそれほど強固だ、という竹信さんのある意味で悲観的な見通しは、日本社会の現実をつぶさに取材してこられた経験に裏打ちされていることを考えると、とても印象深い指摘でした。

 続いて、こうした日本社会の把握は、1980年代以降の日本の法政策の状況をよく説明することが、あざやかに整理されました。1985年に男女雇用機会均等法が成立しますが、この年は、日本のジェンダー平等元年というより、第3号被保険者制度を生みだした年金改革や、労働者派遣法の成立により、日本社会のジェンダー構造を固定化する制度が整備された年ととらえるのが正解ということになります。夫婦同姓別姓選択制の導入や婚外子差別の撤廃をめざす1996年の民法改正要綱案が頓挫していることも、その後民法改正の見通しが現在に至るもまったく立っていないことも、説明できます。男女共同参画社会基本法が1999年に成立し、そのあと激しいバックラッシュが起きたことも、無償の福祉のリソースを失っては大変だ、という危機感の表れであった、と説明できます。介護保険制度の導入にもかかわらず、介護労働者が男女を問わず低賃金のために経済的に自立できず、離職者が多いのも、そこだけ部分的に解決はできない構造的な問題ということになります。

 次に、こうした日本社会のありようとは対照的に、産業構造の転換に対応するために、さまざまな国で、女性も働いて経済力をつけ、税金や社会保険料の担い手としても社会を支える、そうした社会に変わるための社会改革がなされたことが、紹介されました。人手不足なら女性に働いてもらう、そして、税金や社会保険料を払ってもらうスウェーデン、家族責任を担っている短時間のパート労働の女性も、同一労働同一賃金になれば、就労が増え、家計収入が増え、消費も活発化し、国内経済を改善するオランダ、男女ともに短時間労働を選びやすくなれば、転職トレーニングを受けられるようになり、産業構造の転換に対応することもできます。育児休業中の所得保障に加えて、パパ・クォータ制度によって、男性に育児の楽しみを教えたノルウェー、企業経営改革の一環としてワーク・ライフ・バランスに取り組んだアメリカ、すべての労働者に育児と両立する労働時間を法律で保障するフランスなどなど。

 日本に相応しいモデルは何なのか、議論はいろいろあると思いますが、日本は新しい社会の仕組みを作っていくことが不可欠で、それは日本社会の基本構造を変えることになるので、いっぺんにはいかないから、徐々に変えていくとして、どういう方向に変えるのか・変わりたいのか、私たちが、目標とする社会を明確にイメージすることが必要だということが、竹信さんの講演から私が受け取った第1のメッセージです。その際に、同一労働同一賃金の原則によって、いわゆる非正規雇用の短時間・短期間労働の雇用条件を個人の生存を保障するレベルに引き上げること、たくさんの人で仕事を分けても企業の負担にならないように、企業が担ってきた福利厚生を社会で担う仕組みにすること、こうした仕組みの変更には、女性が政治や経営の方針決定に参画することが必要だ、と思いました。

 政策方針決定への参画をすすめるポジティブ・アクションの取り組みが、日本のジェンダー平等への緊急の課題であることが、2009年8月に女性差別撤廃委員会から出された、日本レポート審査の総括所見でも指摘され、2011年8月までに取り組み状況を報告しなければならないフォローアップ項目の一つともなっていました。めざすべき社会の目標を明確にしていくとともに、それを実現する手段についても、今後また、とりあげる機会があるとよいと思いました。

 豊富な情報と明快なメッセージに、刺激を受けた90分でした。

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